◇音読カード
例えば『TOEICテスト600点突破! 音読カード』(太田信雄、第三書房)などがある。同書による方法は次の通り(pp.9-12)。
1.リスニング
2.音読
3.日本語から英語をパッと呼び出す
4.音読筆写
特にこのうちの「日本語から英語をパッと呼び出す」を3000回繰り返すよう勧めている。
これは非常にストレートで、好感が持てる。ただ、文構造に対する認識をもっと意図的に育てるようにしないと、期待したほどの応用力は身に付かないであろう。
◇80回音読
言わずと知れた市橋敬三氏の方法である。今や古典となった『必ずものになる話すための英文法』シリーズ(研究社出版)など、氏による多数の書籍で紹介されている(詳細にはバラツキがあるようであるが)。ここでは『TOEIC TEST目標点数を必ずとりにいく。スコア330点レベル』(ビジネス社、「和→英」タイプ)から、「本書の効果的学習法」(pp.7-8)を紹介する。
@本書の和文英訳のヒントを見ながらノートに書くこと。
Aヒントを見てもよく分からないときは英文を和訳する練習をすること。その際、ヒントを見ないで挑戦してみよう。考えても意味が推測できないときは、ヒントを見て英文和訳に挑戦しよう。
B(中略)文法の各項目を終了したら、各項目約5文の中の1番気に入った文を音読して、最終的には暗記してしまうことを勧めたい。音読回数は1文最低80回である。この際、精神を統一して、黙読ではなく音読することが不可欠であることは言うまでもない。
これも上記「音読カード」方式と似たものである。教材が文法項目別になっているので、「音読カード」よりは応用につながりやすいと思われるが、文構造についてはもっと明確に意識しながら学習した方が効果的であろう。
◇リテンション
文単位で記憶し、再現する訓練のことである。通訳訓練においては、一読あるいは一聴しただけの文をただちに正確に再現する訓練(オーラル・ディクテーション)のことを意味する(通訳訓練の用語は必ずしも一定していないので注意が必要である)。覚え方そのものに特別なノウハウがあるというわけではない。
後者の場合、読んだり聴いたりした瞬間にその文の構造を正確に把握できなくてはならないわけであるから、文構造についての学習がやや先行している必要があろう。
◇サイト・トランスレーション
通称「サイトラ」。書かれた和文を口頭で英訳する訓練のことである。既得の英文を再現するだけの場合と、初見の英文で応用力を発揮する場合とがある。後者の方がはるかに高い能力を必要とするし、そもそも例文記憶の枠内に収まらない。
◇十指法(じゅっしほう)
これは『和魂英才 英語超独学法』(吉ゆうそう、南雲堂)で紹介されているもので、以下のような手順をとる(p.74)。
@英文をじっくり黙読し、意味を理解する。
A英文から目を離し、スラスラ正しく言えたら、指を1本折る。
B英文をそらで言い続け、10本指折りしたら終了。
C次の英文に移り、@ABを繰り返す。
要するに、リテンションの一種であるが、「10回成功するまでやる」というのが明快で、実行しやすい。
これに似たものとしては、『いつでもやる気の英語勉強法』(三宅裕之、日本実業出版社)に
暗記の際には、10回音読をしてから、さらに英文を見ないで5回連続で言ってみます。5回連続でつっかえずに言えたら合格。つっかえてしまったら最初から数え直しの「5カウントノックアウトルール」でやりましょう。
というのが紹介されている(p.87)。先に音読すべきことをルール化している点が目を引く(次の段階で類例の自作も行うことになっている)。
いずれにしても、各例文の構造をもっと明確に意識させるような工夫が欲しいところである。
◇穴埋め記憶法
これは『最強の英語「記憶」学習法』(宮野晃、日本実業出版社)で紹介されている英文記憶法であり、次のような手順で学習する(p.77)。
@英文を何度か口頭で言う(手で書くプロセスを加えてもよい)
A次のその英文のポイントとなる単語を指で隠して、英文を繰り返して口に出して暗記を試みる。
B最後に、日本文を見て、英文がスラスラ口に出てくるかをチェックする。
「ポイントとなる単語を指で隠して」というのがユニークである。適当な「中心」を設定することで、記憶への残り方が違ってくるのであろう。ただし、各例文の構造をもっと明確に意識させるような方法が組み込まれていれば、ヨリ効果的なものとなるのではないかと思われる。
◇自作例文による方法
『ちょっとした外国語の覚え方』(新名美次、講談社)には、例文暗記について説明した直後(p.77)に、
加えて、大人の場合、新しい単語やイディオムは、普段自分が使っている日本語のレベルくらいの長文を作り、暗記する作業を繰り返す。これは知的な刺激にもなり、即、実践につながることは言うまでもない。
とある。また、シュリーマン『古代への情熱』(村田数之亮訳、岩波文庫)の有名な一節(p.24)には次のように書かれている。
…つねに興味ある対象について作文を書くこと、これを教師の指導によって訂正すること、前日直されたものを暗記して、つぎの時間に暗唱すること
このように、自分自身の必要性などに合った例文を自分の力で作成して記憶することは、教材から得たいわば天下り的な知識を、自分に密着したものへと転化するための優れた方法である。なお、シュリーマンのように指導者の援助が得られれば、正確さを犠牲にしてしまう危険を避けることができる。
◇只管朗読
『國弘流英語の話しかた』(國弘正雄、たちばな出版)などで紹介されている方法である。著者は言わずと知れた「同時通訳の神様」である。
これは非常に堅実な方法である。素材の選択・集中という意味では、例文記憶による方法に一歩劣るとも言えるが、文章の音読を好む人にとっては、単なる例文の集合体よりも効果的に学べる可能性もある。長短を知った上で選択すればよいであろう。もちろん、まとまった文章として音読する一方で、そこから重要な例文を抜き出して重点的に学ぶ、という複合的な方法でもよい。
音読においては、@各文が伝えようとしているポイントを明確に意識することと、Aできるだけ感情移入して読むこと(さも「自分自身が」「今」発信しているかのように読むこと)の2点が大事である。単に「正確な音声でスラスラ読める」というだけでは、頭の中の言語的な活動が十分に行われないため、見かけほどには実際的な能力が高まらないであろう。もちろん、音読と並行して、実際に自分の言葉で発信する機会を増やしていくことも、必要かつ重要である。
◇瞬間英作文
これは『英語上達完全マップ』(森沢洋介、ベレ出版)において提唱されているものである。
学習の手順については、「ステージ分け」や「サイクル回し」などの工夫が見られ、かなりよくできた方法であると思われるが、例文の活かし方としては特別なものではない。これまでに見てきたいくつかの方法と同様、例文が持つ構造や、その背後にあるルールについてもっと明確に意識するプロセスを含めれば、更に効果的な方法となるであろう。