クイック・レスポンスはときに「QR」と略記される。
例えば『赤版 奇跡の英単語』(長崎玄弥、祥伝社)が「秒単位速習法」として紹介している。その基本は、@「知らないか、記憶が不確実な単語」について数回口慣らしする、A英単語リストを見て意味が分かるかチェック、Bこれで100語2分に達したら日→英、といったものである。著者はp.26で、
この秒単位のドリルの一つの大きな利点は、時間がかからないために、振出しに戻ることが苦にならないことです。と「秒単位」の強みを紹介している。
同書の初版は1975年刊行であるが、この方式の原形となっているのは著者自身が若い頃(終戦直後)に実践した訓練であるから、歴史はかなり古いと言える。
次に通訳関連の書籍。いくつかあるが、ここでは『はじめてのウィスパリング同時通訳』(柴田バネッサ、南雲堂)p.27から引用する。
覚えたい単語の英日対訳の語彙リストを作成します。見ての通り、長崎式とほぼ同じ方法である。ただ、同書は通訳訓練のテキストであるから、リピーティング、シャドーイング、頭ごなし訳、サイト・トランスレーション、リテンション、メモ取り、サマライゼーション、パラフレージング、リプロダクションなどにも触れられている。
1リストに15〜20ワード位から始め、徐々に単語数を増やします。1つの単語を1秒で言切れるように、繰り返し発音練習した後、日本語の欄のみを見て英単語を発音していきます。
1週間か2週間に、1リストの割合で進みます。
また、最近のものとしては『30分で50語を記憶! 高速マスター英単語』(小倉慶郎、DHC)が挙げられる。「はじめに」(p.4)には「本書でメインに使用している『クイック・レスポンス』による英単語記憶術は、大学生に試してみたところ、8〜9割の人が英単語50語を10分程度で覚えられるという結果が出ています。」とあり、大いに勇気づけられる。クイック・レスポンスの方法は「1語1秒」という点も含めて上2者とほぼ同じである。
なお、同書のメソッドは、全体としては通訳訓練のサブセットと呼ぶべきものであり(著者は通訳者でもある)、このクイック・レスポンスの後にシャドーイングと日→英サイト・トランスレーション(ただし後者はオプショナル)を行うことによって、単語の定着を図るしくみとなっている。なお、シャドーイングとサイトラの便宜のためか、日英双方の文にスラッシュが挿入してある。
◇過剰学習について
以上見てきたように、クイック・レスポンスでは高速での反復が重視されている。
徹底的な反復学習そのものは古くから「過剰学習」として知られているが、ここで重要なのは意識的な時間短縮を方法の中に組み入れていることである。
例えば、『速読勉強術』(宇都出雅巳、すばる舎)や『スーパー受験術 驚異のスイッチフルバック学習法』(小谷一、大陸書房、絶版)などに、そのような考え方が見られる。単語のクイック・レスポンスの場合は、「1語1秒」という具体的な目安があることが特徴であると言えよう。
◇英単語速学術
これは「自己講義法」(後に「コメント法」と改称)で知られる『マルチ速学術入門』(栗山実、ダイヤモンド社)およびその事実上の改訂版である『キャリアアップの勉強法』(同、河出書房新社)で紹介されているものである。
全体としては、次のような手順を経る(前者p.192、後者p.200)。
1.品詞別にまとめる(100〜200語)
2.カード化
3.ジャンル別英単語一覧表(分類・体系化)
4.訳語クイズ(予備知識の形成)
5.単語クイズ(個々の英単語の理解)
6.完成クイズ(仕上げ、総仕上げ)
このうち「訳語クイズ」は英和方向の、「単語クイズ」は和英方向のものである。後者の場合、
設 問……グループ名と訳語
第1ヒント……英単語の頭3文字と残り文字数
第2ヒント……語尾・接尾辞
第3ヒント……発音記号
正 解……英単語
という構成になっている。
これはヒントを段階的に使用することで頭への負荷を徐々に大きくしていくものであり、非常にユニークな方法である。情報のまとめ方としては表形式を採用し、ヒントとしては対象そのものの一部分を利用している。単語の並び方は単なるリストであるが、既得の語句を含めたマッピングなどを併用すれば、更に効果的なものになるかも知れない。
◇マッピング
語句同士を線で結んだり囲ったりすることで、相互関係やニュアンスについての理解を深め、記憶の助けにするものである。
通常の分類単語集は1次元のリストであり、意味の包含関係が充分に表現されていないため、馴染みのない分野の語句を学ぶのには情報が不足しがちである。その欠点を補うための方法の一つがこれであると言える。もちろん、意味についての詳しい解説が付記されていれば、更に正確な理解が可能となる。
ここ数年、一般的なマッピングに関する書籍は多数刊行されているが、英単語のマッピングに関するものはそれほど多くはない。目立ったところでは、『TOEICテスト900点突破ボキャブラリー』(投野由紀夫・阿部真理子、アルク)というのがあり、マッピングに関して10種類の「ストラテジー」が紹介されている。他にも『使える!増える!忘れない! マイ英単語帳の作り方』等、何種類かの単語集があるようである。
ただ、いずれの方法(形式)を選択するとしても、それはあくまでも手段でしかない。そういった形式それ自体よりも、自ら主体的に取り組む姿勢の方がはるかに重要である。具体的には、関連する語句を芋づる式に思い出すような訓練が非常に役立つ。そのための手段としてマッピングを利用するわけである。
◇「3語脳」英単語記憶法
これは『「3語脳」英単語記憶法』(守誠、幻冬舎)で紹介されているものであり、著者は「3カ月で1万語を覚えられる、驚異の記憶法!」(p.3)と主張している。その方法は、「まったく知らない単語」「よく知っている単語」「何となく知っている単語」を組み合わせて簡単な文にし、唱えたり書いたりすることである。ただ、書くときにはそれらの語を縦に並べるというのがポイントであるとされる。
具体例は割愛するが、なかなかシンプルで実行しやすい方法であるし、特に「縦に並べる」という発想は秀逸である。しかし、「○○を△△に◇◇する」のように日本語に頼ったかたちで単語を結びつけている関係で、冠詞や前置詞などについての情報が抜け落ちてしまうため、作文力の向上にはそれほど寄与しないと思われる。
◇文脈記憶法
『最強の英語「記憶」学習法』(宮野晃、日本実業出版社)で紹介されている単語学習法。単語を覚えるときに、それが使われていた英文(あるいはそれを易しく書き換えたもの)を添える。この方法を使って作成したノートは、次のように活用するものとされている(p.34)。
はじめに単語だけを見る。意味がわかったら次の単語に移る。もし意味を忘れていれば、すぐ横にある英文を読む。それでも意味を思いだせなければ、すぐ下の罫線の右端に書かれている単語の意味を読む。なお、紙片などを使って、上から下へ1行ずつずらしていくか、あるいは手でノートの右端を隠すと、単語の意味が目に触れることはない。英文が併記してあるとはいえ、それはあくまでも単語の意味を覚えるためのものであり、英文の再現を目標としているわけではない。
なお、同書では、例文や長文の覚え方も紹介されている。前者については別項で触れる。
◇語源・音感・ゴロ合わせなど
詳細な説明は割愛するが、いずれも効果的な方法であり、他の方法と併用することが可能である。ただし、単語によって適不適があるので、「すべてを一つの方法で」とは考えない方がよい。できる範囲で活用するのが現実的である。
ゴロ合わせについてはそのデメリットが指摘されることも少なくないが、これは言うなれば「頭の中にメモ書きするようなもの」と捉えておけばよい。ゴロ合わせで覚えただけでは不十分なのはもちろんであるが、それでも「本やノートを見直さなくても済む」という意味では大きなメリットがある。
ところで、単語の記憶法については種田輝豊氏が「はじめての単語を絶対忘れない方法」なるものを説いているので、ここに紹介しておきたい。引用は『20カ国語ペラペラ』(実業之日本社、絶版)のpp.181-182から。
第一に、ひいた単語から、すぐに目をはなしてはいけない。単語につくづくと見入ることである。どんなことばでも、印刷された単語は、どれをとっても固有の格好をもっている。その特徴から得た第一印象をだいじにする。究極の直感的方法と言えようか。
第二に、その単語の意味を考える。たくさんいる意味のうち、まず、第一義だけを読みとり、頭の中で反復し、想像力をはたらかせながら、絵に復元しつつ、また単語に目を移し、さらにまた見つめる。そして、がまんできるかぎり長い間ねばる。
第三に、なん度か声に出して発音してみるとよい。しかし、ささやき程度におさえておく。そうしているうちに、その単語のスペルの特徴と意味とその音が溶けあってくる。