(1) 新刊 『英文構造図』(第3版) 大好評発売中!
  10265528_10152449507841816_3640753823111937564_o.jpg
(2) 英文構造図の詳細は 公式サイト をご覧ください。
(3) ブログ記事の体系的閲覧には 目次一覧 をご利用ください。

2015年03月26日

「無断引用」という言い方

ほぼ1年前、毎日新聞・校閲グループが次のようなツイートをしている(2014年3月17日 19:10、論評のため全文引用させていただく)。

【直したい表現】「無断引用」→○「無断転載」 ◆「無断引用」は誤り。著作権法でいう「引用」は、同法で認められた範囲・方法で著作物を無断で利用すること。「転載」は「引用」範囲を超えた行為で、許可を得るなどの手続きが必要。無許諾の複製による利用は「無断転載」「盗用」「不適切引用」

はたしてそうなのか。以下に私の考えを記す。

まず、著作権法では「引用」という語は定義されてはいない。第32条1項において
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
(強調は筆者)
のように使われているだけだ。他の条文にも登場しない。

では、この「引用」という語は、@法32条に示された条件を満たしたものに限定して使うべきなのか、それともAそうでないものをも含んだ一般的な意味で使うべきなのか?

法解釈の最大のよりどころは条文であるから、ここであらためて条文を見てみよう。上記のとおり「引用」は3回登場する。

まず1つ目は、「公表された著作物は」というかたちで対象を限定し、「目的上正当な範囲内で」というかたちで目的を限定している。このようにして意味範囲を限定しているということは、この「引用」はもともとA(一般的)の考えに立ったものであると理解できる。

2つ目と3つ目はわかりにくいが、1つ目がA(一般的)である以上、2つ目と3つ目も同じくAであると判断するのが自然であろう。少なくとも、いずれについても@(限定的)であると断言するに足りる根拠はないと私には思われる。

さて、上記ツイートを見ると、「著作権法でいう『引用』は同法で認められた範囲・方法で著作物を無断で利用すること」とある。これは明確に@(限定的)の考えに立っている。
(この断定が何を根拠としたものなのかはよくわからない。書店に行って著作権法の専門書を何冊か見てみたが、それらしいものは見つからなかった。逆に、A(一般的)の立場で書かれたものはあったと記憶している。)

ところが、最後に登場する「不適切引用」はというと、「不適切」という限定が可能であるところからして、この「引用」がA(一般的)の考えに立つものであることは明らかだ。となると、一つのツイートの内部で「引用」の意味が矛盾していることになる。これはA(一般的)に統一すべきものであろう。

さて、ここでようやく本題。肝心の「無断引用」については、やはり適切な呼び方とは言えない。いくつかの条件を満たしてさえいれば無断で引用することが許される以上、「無断」という限定だけでは違法なものを指すのに不充分だからだ(このように理由を明示することが大切である)。その意味からは、違法なものだけを示すときには、毎日新聞・校閲グループの言うように「盗用」「不適切引用」などの呼び方をするのがよいだろう。

ただし、「無断転載」には疑問が残る。というのは、転載もまたいくつかの状況(32条2項、39条1項、40条1項)においては無断での実施が許されている以上、「無断」という限定だけでは違法なものを指すのに不充分だからだ。そのため、私としては代案のリストからはずしておきたい。

posted by 物好鬼 at 19:37| Comment(0) | TrackBack(0) | その他、雑 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。