違いを説明するにあたっては必ずと言ってよいくらい
“She is not more beautiful than her mother.”
“She is no more beautiful than her mother.”
というかたちで対比がなされ、「“no”は“not”より強い否定を表す」などと説明される。
しかし、このような説明では、「ならばどうして“no”のときにはイコールになるのか?」という疑問はなかなか解消されないのではないだろうか。そこで以下では少し違う説明をしてみたい。
まず、前者つまり
“She is not more beautiful than her mother.”
は
“She is more beautiful than her mother.” (つまり、彼女>彼女の母)
の単なる否定である。この場合、“not”は文全体(語句としては“is”)を否定していて、その意味は「彼女≦彼女の母」になる。これについては問題ないであろう。
それに対して後者つまり
“She is no more beautiful than her mother.”
の場合、“no”は直後の“more”にかかっている(安藤『現代英文法講義』p.578、また p.583 も参照)。どういうことかというと、これは
“She is more beautiful than her mother.”
を基本にして、その“more”の程度が much(much more=はるかに上)でも 10%(10% more=1割ほど上)でもなく no(no more=0%上)だと言っているのだ。
つまり、“no more beautiful”は「より美しい」割合が0%だという意味なので、(“not more”の場合とは異なって)割合がマイナスの場合(彼女<彼女の母)が出てくる余地はないことになり、「彼女=彼女の母」になる。
そのためこの構文は、聞き手が“Her mother is beautiful.”とは思っていないことを想定して、「母ちゃんも不細工だが娘も同レベルだ」という意味で使われることが多い。それで受験レベルの文法書はほぼそういう姿勢で書かれているのだが、実際の使われ方はやや流動的・不透明であるらしく、専門家の間でも意見が分かれているようだ(→※)。
※とりあえず次の3点に注意が必要であろう。
(1) 同じ形式であっても、否定の「含み」を持たない場合がある。
参考1) 杉山『英文法詳解』pp.537-538
(2) 比較級を“-er”で作る形容詞について“more”を使用すると否定の「含み」が出る。
参考2) 江川『英文法解説』p.177
参考3) 比較の構造(“than”の「関係詞型」と「接続詞型」)
(3) “no more 〜 than”が“not more 〜 than”の意味で使われることがある。
参考4) 岡田『英語の構文150 New Edition』p.237
参考5) no more than...の「イディオム用法」と「非イディオム用法」-1-(全7回の力作)
なお、拙著(記事の上を参照)では、このテーマを含めたさまざまな構文について構造図を使って解説している。ぜひ参照されたい。
最近、日本語教育関係の本を読んでいますが、文法書には文の構造図が一杯載ってました。
その本のタイトル、教えてください。今日も夕方あたりに神保町に行くと思うので、見てみたいのです。
『シリーズ・日本語のしくみを探る@ 日本語文法のしくみ』(井上 優 著 研究社刊)という本です。
統語論とか難しそうな文法用語が出てきて、私は途中で投げ出すかもしれません。